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帝京大がアスリートを支援する「スポーツ医科学センター」を新設。本田圭佑と東京五輪出場へ向けた業務提携も

帝京大学は3日、霞ヶ関キャンパスで記者会見を行い、10月に八王子キャンパスにオープンする新スポーツ医科学センターの概要を発表した。この日の会見には、同大の冲永佳史理事、スポーツ医科学センター長の松下隆教授、同センター講師の加藤基氏、同大ラグビー部の岩出雅之監督、そして同大出身で日本航空所属の女子空手選手・植草歩が出席。会見では、オーストラリアの強豪メルボルン・ビクトリーに所属するサッカー元日本代表・本田圭佑との業務提携に関して合意したことも同時に発表された。

Icon 1482131451808 佐藤 主祥 | 2018/10/04
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帝京大学は同大ラグビー部を医科学的にサポートするため、2011年に「スポーツ医科学センター」を発足。

だがこの度、学内の運動・部活動のサポートのみならず、学外のアスリートのサポートも実施するべく、八王子キャンパス内に同センターの新センターを開所することを発表した。

このスポーツ医科学センターは設立当初より「TUISSM」という名称で活動しており、「メディカル・フィジカル・サイエンス・テクノロジー」の4つの部門の専門家を集め、協力しながらアスリートのサポートに努めてきた。

そして、スポーツ医科学を極めたTUISSMは、最終的には日本のスポーツを強くすることを目標に掲げ、サポート拡大を決断。

アスリートが競技活動の中断による絶望や、パフォーマンスを向上したいという希望を抱える中で、絶望を希望に変え、希望を現実にしていく。その実現を活動の理念として添え、アスリートやスポーツ愛好家を支えていく方針だ。

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さらに今回、「うちかつ強さを」というスローガンを掲げたTUISSM。

同センターの講師である加藤氏は、この言葉を選んだ理由について「選手に打ち勝つ強さを、困難に打ち勝つ強さを持ってほしい。そして『打ち勝つ強さを提供できるようなサポートしていくぞ』と、そういう意気込みを込めました」と話した。

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そしてTUISSMには、アスリートのニーズに合わせて柔軟なサポートができるサービス『TASK(タスク)』がある。

このサービスを受けることで、よりオーダーメイドな、アスリートに合ったプログラムメニューを構築できるという。このサービスについて、加藤氏はこう話す。

「スポーツ障害からの競技復帰や怪我の発生予防、パフォーマンス向上のためには、分野横断的で多角的なサポートが必要不可欠。その考えのもと、このTASKというサービスブランドを開発しました。

ドクターだけでも、トレーナーだけでも、栄養士だけでもサポートは成立しません。TASKのチームでは、全ての分野における専門家がお互いを尊重し合い、意見交換をしながら、選手のことを考えてメニューを考えております。分野の垣根を超えて、フラットに連携できるという部分が、このサービスの最大の強みなのです」

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2011年の発足当初からサポートを受けている帝京大学ラグビー部の岩出監督は、「選手にとって、鍛えるだけじゃなく、しっかりと(身体を)守っていくことが大事。彼らの頑張りをいい意味で支えながら、無理をさせず、良いコンディションを作っていく。予防に主を置いた対策で、少しずつ結果が出てきました」と常勝集団へと変貌を遂げた背景を語った。

スポーツ医科学センターが設立する前は、1点差のクロスゲームが多かったと話す岩出監督。だがサポートを受けるようになると一転、各選手がベストコンディションで挑めるゲームが増え、ビッグスコアを叩きだす爆発力が生まれたという。

同大ラグビー部は今年度、全国大学選手権での10連覇が懸かっている。前人未踏の快挙に向け、岩出監督は「今年、新しいセンターが新設され、より充実したTASKのサポートを受けられるので、間違いなくV10を狙える位置にいると思う。そういう意味では、コンディションの良さが何より重要だということを、ラグビー界のみなさんにお見せできるのではないかと思います」と強気な姿勢を示した。

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現在も同大を練習拠点にしている空手の組手女子68キロ超級の植草は「帝京大学のサポートを受けてから、これまで疎かにしていたフィジカル面や栄養面を考えるようになった。そのおかげで今は大きな怪我もなく、勝ち続けることができている」と話すと、「ちょっとした怪我を練習中にしてしまった時でも、大学に行けばすぐにケアをしてくれるっていうのはすごく安心」とTASKによるサポートの存在の大きさを実感していた。

植草は小学校3年生の頃に幼馴染に誘われて空手を始めた。初めてミット打ちをした時、ミットが弾ける音があまりに気持ちよく、父親に「空手をやりたい」と懇願したという。

それから鍛錬を積み、帝京大学に進学してからは全日本選手権や大学の世界選手権など、あらゆる大会で頂点に立った。しかし、そんな中で参戦した2014年の世界選手権では3位に止まり、屈辱を受けた。

その後、自分に足りないものを模索していった植草。新たなコーチからの助言や、母校のラグビー部やチアリーディング部など空手以外の世界にも触れたことで、より視野を広げて空手と向き合えるようになった。そういった様々な分野の人たちとの出会いが、自分の殻を破れた一番の要因だったという。

そして現在、世界ランク1位の座に座り、先日開催されたアジア大会で金メダルを獲得するなど、紛れもないトップアスリートに成長した植草。東京五輪へ向けても「今の環境でやれば絶対に金メダルを取れると思うので、多くの人に恩返しをできるいうに頑張りたい」と自信をのぞかせた。

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W杯ロシア大会に日本代表として出場した本田(写真提供:白鳥純一)

そして、この日の会見で帝京大学は、サッカー元日本代表の本田圭佑と業務提携を結んだことも発表。

会見には出席しなかったが、ビデオレターで同大からサポートを受けることについてコメントした。コメント全文は以下の通り。 

「こんにちは。本田圭佑です。この度は帝京大学とサポート契約を結べたことを、本当に心から嬉しく思っております。ありがとうございます。

W杯を終えてから、自分自身、今後何を目指すか考えた時に、もう一度だけ世界の舞台でやりたいということで、2020年の東京五輪を目指して頑張ろうということを決意しました。

その上で自分が32歳になってですね、フィジカル的にもう伸びないという風に言われがちですが、僕はまだ諦めずに、フィジカル的に、またさらに、今まで以上に、しかも小さな成長ではなく大きな成長を目指してやっていきたいと思っています。

テーマは『キング・オブ・ザ・アスリート』。

この世界中に存在するアスリートの中で、本当にトップを目指して、残り2年間、死ぬ気で頑張りたいと思っておりますので、帝京大学が持っている全てを、僕はフル活用したいと思っています。ぜひ、サポートの程よろしくお願い致します」

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このビデオレターの補足として、加藤氏は「2020年の大きな大会を目指すにあたって、より競技力を上げていきたいというご要望を本田選手ご本人からいただきました。もともとランニングに課題があるとご自身では考えていたようで、我々のチームが持っていたランニングノウハウを学びたいということから、それを熟知したアスレティックトレーナーを派遣する、という形になった」と本田との業務提携に至った経緯を話した。

また、本田がサッカーカンボジア代表の実質的な監督を務めているため、同代表の選手強化においても同じトレーニングサポートを行っていくという。本田がカンボジアに遠征する際には、帝京大学スタッフも帯同し、同代表の支援をしていくことになる。

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現在はスポーツ医科学クリニックを開院しており、学外のアスリートに関しても診療所で受診できる体制を整えている帝京大学スポーツ医科学センター「TUISSM」。

ただ、活動の基本方針はまだ検討している最中で、プロジェクトとして本格始動するのは2019年4月を予定している。

この医科学的サポートは、日本中の競技、そしてアスリートの一人ひとりを強化する上で大きな要素となってくるだろう。

2年後の東京五輪に向けてますます期待が高まってきた。


文・写真/佐藤主祥

◆帝京大学スポーツ医科学センター