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日本フェンシング界のニューヒーロー、西藤俊哉が思い描く東京への道筋Vol.3 「まだ完成しなくていい。今は自分のフェンシングを突き詰めていく」

昨年7月、ドイツのライプチヒで行われたフェンシング世界選手権で、一躍、日本フェンシング界をリードする存在に躍り出た若者がいる。男子フルーレ個人で銀メダルを獲得した西藤俊哉だ。この大会で西藤は、持ち味である思いきりの良い攻撃を武器に、リオ五輪金メダルのガロッツォ(イタリア)をはじめとする世界の強豪を次々と撃破し、まさに破竹の勢いで決勝の舞台まで駆け上がった。大会後も西藤の勢いは衰えず、12月に行われた全日本選手権では、国内のライバルを退けて初優勝。昨年、急成長を遂げた20歳の若者が思い描く2020年東京オリンピックまでの道筋はどのようなものなのか。第三話では自身が感じている現在地や、イメージしている東京への過程を語ってもらった。

Icon segawa.taisuke1 瀬川 泰祐(せがわたいすけ) | 2018/05/21
去年の世界選手権の頃は、自分自身でノッてるなという感じはあったのでしょうか?

そうですね。ノッているというよりは、“あ、今年は調子いいのかな”っていう感覚はありましたね。同時にたくさんチャンスももらっていたので、そのチャンスを生かしたいと思っていました。チャレンジャー精神が強かったですし、僕には失うものもなかったですから。逆に相手はオリンピックが終わって初めての世界選手権です。相手の場合は、僕に負けたら「オリンピック選手が負けたよ」って言われるわけじゃないですか。だから、“絶対に俺より相手の方がプレッシャーがあるし、逆に俺はなんにも怖くない”って思って試合に入ることができました。実際に、世界選手権の前と比べて、世界選手権後は、無意識に自分のチャレンジャー精神が押しつぶされてしまっているというか、変にプレッシャーを感じてしまっているところがあるので、そこも今の課題ですね。

新しい立場になったということですね。

そうですね。今課題を感じて、難しさも感じているし、結果も出ていないんで苦しいんですけど、“この先に何があるんだろう”っていうワクワク感がものすごく強くて、この壁を乗り越えれば、また一発いけるっていう感覚はありますね。

 
通るべき道を通っているってことですね。ライバルたちとはどのような関係でしょうか。

松山選手、敷根選手は、今組んでいるナショナルチームでは、誰よりも早くから入っていて、結果も出してきました。だからチーム内での2人の存在はとても大きいです。一方で団体戦のメンバーに入っていない選手たちが、自分たちのポジションを狙っているというのは、一緒に練習していてもわかりますし、若い選手の台頭、下からの突き上げも感じています。でも、やはり松山選手・敷根選手の2人というのは、僕の中では凄く大きいですね。

キングギアは、道具にフォーカスした媒体なんですが、道具に対するこだわりはありますか?

やはり、剣ですね。重さだったり、剣の柔らかさ硬さ、グリップ部分のフィーリングだったり。あとは接着面、剣先のポイントですね。僕は、試合前は結構気を使って、剣先をすごい掃除するのですが、道具の中でも、特に剣に対するメンテナンスは、しっかり時間をかけて行いますね。もしかしたら、僕は、他の選手よりも道具に対するセンスはないかもしれないですけどね(笑)。あとは、データ分析はしっかり行なっています。

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アナリストが帯同されていますよね。

そうですね。試合前だけに限らず、日頃からビデオをみて研究したり対策を練っています。アナリストの方がワールドカップの全試合の動画を撮ってくれたので、僕は対戦相手の試合を見る時は、その選手が僕と同じタイプの選手と戦っている動画を見て分析します。僕と同じ右利きで、ほぼ同じ体格で、同じプレイスタイルの選手と対戦した時の動画を見るんです。そうすると、「あ、この選手はこういう風にポイントを取ってるんだな」とか、「こういう攻撃でポイントを取られているんだな」とかが見えてくる。自分の試合に関しては、得点と得点されたポイント、さらにはその内容を分析します。あとは決定率なんかも数字で出してくれています。僕の強いところも弱いところも細かいところまで全て数字で出してくれます。例えば、自分の中で、今大会はここに取り組んだという意識があったとしても、データにはそれが現れてなかったりすることもある。それをフィードバックしてもらえるのが凄くありがたい。それは結果として出てくるので、信頼性が高いから、感覚より数字を重要視しています。

最後に東京オリンピックに向けて、今後どういう過程を踏んでいこうとしているのか、教えてください。

2020年の東京オリンピックでは、金メダルしか考えていません。そこに対しての準備という意味では、今シーズンと来シーズンは、いろいろなことにチャレンジできると思っています。今シーズンは結果は出ていないのですが、今は結果が出なくてもいいと思っています。今は自分のフェンシングを完成させるというよりは、もっとクオリティを上げて、自分のフェンシングを突き詰めていく時期。2019年4月にはオリンピックの出場権をかけたレースが始まるので、そこでしっかり勝負できるようにしたい。そのためにも、まずはフェンシングのクオリティを基礎から固めて、課題抽出して、すぐに取り組めることと、繰り返しやらないといけないことを分けて準備を進めているという感じですね。

しっかり足元を見ながら進んでいますね。今後さらに成長した西藤選手が見れることを期待しています。今日はありがとうございました。

はい、頑張ります。こちらこそ、今日はどうもありがとうございました!


取材・文・写真:瀬川泰祐