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大橋健典(前編) 評価に繋がらなかった衝撃のKO劇

島根県から単身上京して10年。プロ21戦目にしてようやく辿り着いた日本王者の地位。大橋健典が目標としていた場所に立った瞬間、すでに次の戦いが始まっていた。

Icon segawa.taisuke1 瀬川 泰祐(せがわたいすけ) | 2018/03/29
「もし、あのまま試合を続けていたとしても、僕がKOしていたと思う」


 第62代日本フェザー級チャンピオンの大橋健典は、取材の数日前に行われた試合を振り返り、少し語気を強めながらこう言い放った。


 2017年12月1日、後楽園ホールで行われた「A-sign.Bee9」のセミファイナルで、挑戦者としてリングに上がった大橋健典は、大方の予想を覆し、IBFフェザー級10位にランキングされている当時の日本フェザー級王者、坂晃典をマットに沈めた。5ラウンド3分6秒KO勝ち。タイトル初挑戦というチャンスをものにし、ついに念願の日本フェザー級王者に就くことに成功した。

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 この試合、序盤は坂の的確なパンチに手を焼いたものの、4ラウンドの終盤あたりから徐々に大橋のパンチがヒットし始める。試合が進むにつれて好感触をつかんだ大橋は、圧力を強めながら、最大の魅力である左右の強烈なパンチで坂に襲いかかっていった。5ラウンドに入るとジャブや左右のフックが的確にヒットし、坂がぐらつく。

 坂にダメージが蓄積されていることを感じ「いける」と思い始めた矢先だった。残り10秒の合図である拍子木の音が「カン、カン」と鳴ると、ラウンド終了のゴングと勘違いした坂は、大橋から背を向け、自身のコーナーに戻ろうと歩き出したのだ。冷静に試合を運んでいた大橋は、その瞬間を見逃さなかった。即座にコーナー側に回り込むとともに、渾身の右フックを繰り出した。大橋の放った一撃は、ノーガードの坂の顔面を捉えると、坂は大の字にダウン。意識が朦朧としていた坂は、そのまま10カウントを聞くこととなり、前代未聞、衝撃のKO決着となった。


 「この試合に勝利する事で、自分の評価は一気に上がる。」

 試合前、大橋はそう考えていた。角海老宝石ボクシングジムの関係者も同様だっただろう。だが、現実は違った。既述のとおり、坂から奪ったKO勝利が前代未聞の結末だったためだ。この結末が自身への評価を妨げたと感じたからこそ、大橋は冒頭の発言をしたのだろう。


試合直後に次期挑戦者と散らした火花  

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 試合が終わった直後、大橋はリング上で「終わった瞬間、夢のようだった。すごくうれしい気持ちでいっぱいです。」と喜びのコメントを残した。高校の担任に、「ボクシングのチャンピオンになる」と言い残し、島根県出雲市より単身上京して10年。紆余曲折を経て、やっと辿り着いた王者の地位だったからこそ、本音が出たのだろう。

 だが、喜びに浸る間もなく、図らずも、次の戦いが始まった。2017年10月21日に行われた王座挑戦者決定戦を制し、名実ともに最強挑戦者となっていた源大輝がリングに上がると、「坂選手が勝つと思っていた。試合を見た感じでは勝てると思う」と強気の発言で大橋を挑発したのだ。

   これには、普段は寡黙な大橋も、黙ってはいなかった。「バチバチに殴り合って、最後に立っているのは僕というシナリオにしたい」と応戦し、早くも2人の間には火花が散った。

 こうして、ダイナミックグローブ(SLUGFEST.3)・メインイベント第39回チャンピオンカーニバル・日本フェザー級タイトルマッチ10回戦、王者・大橋健典(角海老宝石)と指名挑戦者・源大輝(ワタナベ)の一戦は、試合前からボクシングファンの注目を集める一戦となっていったのだ。

後編へ続く




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4月7日(土)に後楽園ホールで行われる初防衛戦のポスター

取材・文:瀬川泰祐
写真/福田直樹・瀬川泰祐

角海老宝石ボクシングジムhttp://www.kadoebi.com/boxing/index.htm

大橋健典オフィシャルサイト http://takenori.kataru.jp

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