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2.26生きる伝説・三浦知良 50歳バースデーゲームを勝利で祝福「皆が勝利をプレゼントしてくれた」~川淵氏との”誓い”果たす~

2017年2月26日、世界74社206名の報道陣とチーム史上最多13,244人のサポーターの前で、その瞬間は訪れた。”キングカズ”、プロサッカー選手・50歳。その歴史的瞬間の到来は、とても彼らしく、美しい光景だった。

Icon 16442758 1382702521799890 1774501613 o 西村 真 | 2017/02/27
―完売御礼―。快晴の日曜日午後、それはアナウンスされた。明治安田生命J2リーグ開幕戦、横浜FC対松本山雅FCはその歴史に相応しい最高の雰囲気に包まれていた。ホーム横浜FCのサポーターは勿論のこと、遠く長野県から足を運んだ大勢のサポーター、国内外から集まったプレスもまた彼の登場を待ちわびていた。

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※”KAZU”の横断幕を掲げるアウェイ側・松本山雅サポーター

サッカーを愛し、Jリーグを愛し、25年。Jリーグ発足当時は2部も3部リーグも存在しない10クラブのみの戦いだった。そして今やこの国のプロサッカーには38都道府県54のクラブが存在する。この日、Jリーグ最年長出場記録を50歳に更新するまでの間に数々の名場面、名プレーが生まれた。そして彼の影響を受けてサッカーを始めた世代の選手たちも引退していった。長年その華やかさ、厳しさを誰よりも知る男は、いつもと変わらない表情でスタジアムのピッチに姿を現した。

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※サポーターの声援に応える三浦知良選手

横浜市のニッパツ三ツ沢球技場。試合前のウォーミングアップでは、13,000人を超える満員のサポーターに対して”キングカズ”は何度も手を振り、またサポーターも何度も「カズー!」と声援を送る。

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※ウォーミングアップ中の三浦知良選手

約30分のウォーミングアップの後、15時にキックオフの瞬間を迎えた。2トップのFWとして先発出場を果たした三浦知良選手は自身の持つJリーグ最年長出場記録を更新し、歴史に新しい1ページを刻んだ。

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※試合開始前の集合写真で、チームメートを鼓舞する三浦知良選手

FWイバと2トップを組み、目指すはゴールと勝利。試合開始後、一進一退の攻防でお互いに攻めあぐねる展開だった。横浜FCの中盤から最終ラインは長身FWイバを目掛けて、何度も前線にパスとロングボールを送りつづける。―カズに勝利をー。その気持ちが伝わる気迫でボールを追い続ける横浜FCに対して、松本山雅がややボールの支配力を高めていく。お互いにシュート本数も決定機も少ないまま、このままこれといった決定機は訪れないのか?そう少し思い始めた瞬間に待望の先制点が、意外にも早く生まれたのだった。

試合が動いたのは前半16分。MF野村直輝(25)がバイタルエリア付近から右足でミドルシュートを叩き込む。

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※ゴールを決めてMF野村直輝選手と、祝福する横浜FCチームメート

待望の先制ゴールで満員のスタジアムは大歓声に包まれる。素晴らしいゴールを決めた野村選手は真っ先にホームサポーター席側に向かい、ガッツポーズ。先発起用の期待に応え、チームを救う一撃は目が覚めるようなゴールだった。

チームメートから祝福を受け、スタジアムのボルテージは最高潮に達した。チームはこの前半のゴールを守り切り、ハーフタイムを迎える。当の三浦知良選手は経験を生かしたプレーでパスを何度も味方に丁寧に供給し、繋いでいくもののシュートを打てず、前半は悔しくもシュート0本に終わった。

後半、松本FCのキックオフでスタート。両チームとも交代メンバーはなく、引き続き、三浦知良選手はFWとして最前線に立って好機を待ち続けた。後半5分にはサイドからのクロス、10分にはロング気味のボールでチームは”カズ”を狙い、後半開始から横浜FCが攻勢に出る。しかし、ゴールには至らない。後半12分、三浦知良選手はこの日唯一のシュートを放つ。味方からのパス交換から右足で巻いたボールを蹴ってみせたが、GK正面に飛んだ。その8分後、交代となった。

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※交代後、大きな拍手を届ける横浜FCサポーター

交代後、地力で優るアウェイの松本山雅がボールを支配し、果敢に攻め上がるが、決定的チャンスを作れない。FWイバが前線でDFクリア後の起点となり、また何度もフィジカルの強さをいかしてファールを誘い、効果的に時間を稼いでいく。対する松本山雅は、全員守備の横浜FCに対してスペースをみつけられず、決定的なクロスも、縦への突破もできない。終盤はロングボール作戦に切り替えたが、次々と横浜FCの守備に跳ね返されてしまう。試合はこのままチーム全員で体を張って守り抜いた横浜FCが1点のリードを守り切り、終了。

勝利の女神は、この日50歳の誕生日を迎えた男のチームに微笑んだ。

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※ヒーローインタビューにこたえるMF野村直輝選手とFW三浦知良選手

通常、試合後はヒーローインタビューや地元局のTV取材、ミックスゾーンでの囲み取材等でファンも報道陣も解散となるが、この日はそれでは終わらない。

インタビュー後にまず、大勢の報道陣の中を分け入って向かった先に待っていたのは、川淵三郎氏だ。Jリーグの初代チェアマンでもあり、「キャプテン」の愛称で広く知られ、共に日本サッカー史を歩んできた現・日本サッカー協会最高顧問だ。

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※笑顔で熱い抱擁を交わす二人。日本サッカー史において彼らの存在は欠かせない。

この日、観戦に訪れた川淵氏は言った。「"50歳までやれよ"と言ったのが、5、6年前かな」。感慨深く、当時の思い出を振り返るように明かしてくれた。そしてこの日、遂にその誓いを果たしたのだった。サポーターに挨拶した後ゆっくりと川淵氏のもとに歩み寄り、グッと握手。そして沢山のフラッシュを周囲から浴びる中、嬉しそうに抱擁を交わした。

往年の名選手もスタジアムに駆けつけた。Jリーグ発足から共に戦った(当時・ヴェルディ川崎)元日本代表・北澤豪氏、武田修宏氏である。もはや数十年ぶりではないかと思われた豪華3ショットが実現した。北澤豪氏は報道陣の前でラモス瑠偉氏について「(本人も)来たがっていた」と話してくれた。

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※写真左から北澤豪氏、三浦知良選手、武田修宏氏

北澤氏は言った。彼の存在は他の現役選手に新しい可能性を示してくれたという。「大久保(嘉人)も(中村)俊輔もまだまだこれからという風になるだろうね」。他の30代、40代の現役選手にとって刺激になり、また彼らを勇気づける存在となったとコメントした。

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※晴れやかなピンク色のスーツにバラをあしらった姿に着替え、再度インタビューに応じた。支えてくれるサポーターやスタッフに改めて感謝の言葉を告げた。

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インタビューの間、盟友の北澤氏は用意された誕生日ケーキを本人より一足早く”つまみ食い”し、ファンと報道陣の前でおどける素振りをみせた。

さらに、試合開始前の始球式PK対決で駆けつけた「Jリーグ名誉女子マネージャー」で女優の足立梨花さんも、バラの花束をプレゼントしてド派手姿のスーパースターの誕生日を祝福した。

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最後の囲み取材でも何度もファンやチームメート、スタッフに感謝の意を表した。大勢のサポーターから「おめでとうございます」の祝福の声が耳に何度も入り、また、「終わりなきサッカー人生 三浦知良50歳 生涯現役!」の横断幕が印象的で、試合前は涙を流しそうになったという。

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「やはり50歳でこうやってピッチに立ってね、選手たちと一緒に戦えるってことは本当に幸せですし、改めて60歳まで頑張りたいなと思いました」と現役続行を宣言した。最後の囲み取材で海外からの報道陣の中からは「サッカー人生を辞めることは考えたことがありますか?」という質問もあったが、「ないです」と回答し、これからも現役プロサッカー選手として戦っていく強い覚悟を示した。

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三浦知良、50歳。彼に憧れ、一体どれほどの人たちがその背中を追ってきたことだろう。そして長く現役を続けるスポーツ界の希望の星として、時には心の支えとして、今なお君臨し続ける。その逞しさ、その情熱に心打たれたサポーター、プロ選手を夢見た子ども達は数知れない。―キングカズの背中を追ってー。生涯現役を貫く男の伝説はつづく。



文・写真・画像編集/西村 真