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英雄たちが愛した歴史的スパイクVOL.39 『プーマ西ドイツ製からドイツ製、そしてその後の歴史とは?!』

90年イタリアW杯の頃、プーマのスパイクが劇的に変化しました。 この頃、日本ではすでに国産のパラメヒコやメキシコライトがプーマの定番スパイクになっており、モデルチェンジ後の西ドイツ製プーマはマイナーでしたが、W杯では多くの選手が履いていました。90年以降、プーマがドイツ製のスパイクを生産したのは数年間のみだったようで、今回はその頃のモデルについて紹介します。

Icon 29634314 1815368455432881 1085668874 o 小西博昭 | 2019/06/10
巻頭画像は、西ドイツ製からドイツ製の変遷の一部になります。
左は80年代後半、右の4つはその後のモデルです。
図1はこれらのソールです。
Thumb efbc92図1 西ドイツ製、ドイツ製取替え式モデルの主なソール。順番は巻頭画像と同じです。   

巻頭画像の左から2番目は西ドイツ時代最終版のモデルで、それまでのスタイルと大きく変化しました。一番変わった点はシュータンだと思いますが、リバーシブルになっており、モデル名も記されています。
つま先には複雑なステッチが入っており、ソールの構造はそれまでと同じですが、ロゴなどの表示が変わりました。 また、それまでの「KING」のモデル番号は492でしたが、モデルチェンジ後からは491になりました(図2)。

Thumb efbc93図2 モデルチェンジ後のKING(左)。70年代後半から80年代のプーマスパイクのモデル番号で、49Xシリーズは取替え式のハイエンドモデルでした。ちなみに490バイスバイラーキング(もしくはダルグリッシュ・スーパー)、492キング、493SPAキング、494ペレキング、495フェラースター、496トレロ、497メノッティスター、498ペレロンドン、499SPAトレロです。   

神は90年W杯では、このモデルをベースにした特別モデルを履いていたことはこちら
で書きました。
 

しかし、他の選手は通常モデルを使っていたようです。 そのお一人がイングランドのガスコイン選手です(図3) ガスコイン選手は大会当初はBROOKSのスパイクをお使いでしたが、途中から黒塗りのプーマにされたようです。 黒塗りしていると、最近発売されたこちらに見えます。 

Thumb efbc94図3 90年W杯でのガスコイン選手のスパイク。左が予選リーグ(アイルランド戦)で、右が決勝トーナメント(西ドイツ戦)。挿入写真はウォーカー選手のKINGで、ガスコイン選手も同じモデルだったようです。   

その後、ほどなくして西ドイツは統一ドイツになり、「Made in West Germany」表示がなくなり、「Made in Germany」になります。
それとともにKINGのソールもマイナーチェンジを受けます。 

図1の中央と右から2番目がチェンジ後のソールです。
     

Thumb efbc95図4 巻頭画像と図1の中央(左)と右から2番目(右)のスパイク。どちらも同じに見えますが、左は「Made in West Germany」で、右は「Made in Germany」です。ドイツ製になったと同時にソールも変わったと思っていましたが、西ドイツ製でも新型ソールのモデルが存在しました。この頃から箱のデザインも変わりました。モデル名も「KING SUPER」や「KING REMOVABLE」と変化していったようです。   

ソールが変化した後のモデルがいつ頃からトップ選手に使われだしたかを調べてみたところ、91年後半、当時デビューしたてのギグス選手がこのソールのプーマKINGを履いていました(図5右)。同じシーズンのガスコイン選手やマテウス選手は旧型ソールですので、この年を境に新型になっていったようです。
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図5 91年頃のガスコイン選手(トッテナム)、マテウス選手(インテル)、ギグス選手(マンU)のプーマスパイク。 

  ドイツ製になった直後は、シュータンなどはそれまでのデザインとほぼ同じですが、その後は少しだけ変わったようです。
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図6 マイナーチェンジ後のドイツ製「KING」。シュータンのデザインや字体が変化しました。つま先もステッチは同じですが、クッション性が上がったようです。箱も「TURN IT ON」と書かれた黒と緑のものに変わっています。ただ、中敷きに貼られてあるシールには「MADE IN CZECH REPUBLIK」とあります。この頃からドイツでプーマのスパイクが作られなくなったようです。   

さて、90年W杯でプーマを履いていた選手のスパイクがすべて新型だったかというと、例外もありました。
個人的に一番の変わり種はゴリス選手(スペイン)のスパイクです(図7)。 一見すると80年代のモデルに見えますが、細部が異なるようです。 他に同じようなプーマモデルを履くスペイン選手はいなかったと思います。
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図7 左はベルギー・クーレマンス選手と競るゴリス選手。シュータン、ソールとも図2、3の「KING」とは別物です。また、日本製パラメヒコやメキシコライトのようにかかとに白いワンポイントが入っています。スペインチームは「KELME」や「Joma」など自国ブランドのスパイクを使う選手がおられました。   

図7のクーレマンス選手や、ガスコイン選手はこの大会で固定式も履いていました。この頃から取替え式も固定式も「KING」という名称に統一されたようです。
この時代の固定式もおそらく劣化しやすかったためか、取替え式に比べて残っている数がとても少ないと思われます。 また、80年代の旧型モデルを使っている選手も若干名おられました(図8)。  

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図8 90年大会でUAEのアバス選手はトレロを、スコットランドのマクリーシュ選手は変更前の「KING」を使っていました。他のスコットランド選手は図2のような変更後モデルを履いていました。左上挿入写真はカメルーン・マッシン選手の3本線を書いたトレロです。右足の方は開幕戦でカニーヒア選手を倒して退場になった時に脱げてしまいました。   

こちらに紹介しましたが、神はアッパーは新型になってもソールは昔からある2色ナイロンソールの特注モデルを使っていました。多分、90年大会でこのソールを使っていたのは、神と図8右のマクリーシュ選手だけだったと思います。 その後、このソールのスパイクは廃盤になったと思っていましたが、図9のようなドイツ製モデルがあります(巻頭、図1の右端も同じ)。 これとは別に「KING SL」というモデルも2色ナイロンソールで、おそらく97年頃までは製造されていたようです。

Thumb efbc91efbc90図9 ドイツ製「LIGA」。図2の「KING」と異なり、シュータンはリバーシブルではありません。また、かかとのデザインも「KING」とは異なります(右下、左が「LIGA」)。

   アディダスのコパムン、ワールドカップは現在もドイツで作られていますが、プーマは90年代前半までしかドイツ製スパイクはないようです。 最後のドイツ製がどんなモデルだったかは定かではありませんが、図10の「EMPEROR」はドイツ製です。 

取替え式も固定式も同じ名前で、シュータンに製造国は表示されず、中敷きのシールにドイツ製と記されています。 固定式のソールはトラディショナルなタイプで、中央になぜか「Made in W. Germany」と記されています。

Thumb 11図10 ドイツ製「EMPEROR」。固定式ソールの「Made in W. Germany」の「W」を消していた時もあったようです。   
その後は図11の「S.P.A. KING」のように80年代のモデルに似たスタイルを持つスパイクも作られ続けられたようですが、これもドイツ製ではありません。 
  
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図11 インテルからバイエルンへ復帰したマテウス選手(左)。この画像と同じモデルではないですが、右のスパイクはデザインは似ています。   

今もプーマと強い結びつきを持つマテウス選手ですが、現役時代のシグネチャーモデルは個人的に魅力的なものがあまりなく、唯一持っているのが図12です。 

多分、88年頃のモデルで、当時の新型ソールが使われています。 

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図12 西ドイツ製「マテウス・スーパー」。このソールは90年代も様々なモデルに使われており、珍しく取替え式を履いたカズ選手のスパイクもこのソールデザインでした。

対するイングランドの選手は95
年位ですから図6の「KING」のようです。
  

(写真は当時のサッカーマガジン、ダイジェスト、イレブン、アフロ、ゲッティイメージズなどより引用)  



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神に愛された西独製サッカースパイク』
80年代に数々の伝説を生んだサッカー界のスーパースターを足元から考察した論考。  
                  


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