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「チームの価値」と「個人の価値」を高める行動を。FC東京の“スピードスター”永井謙佑がキャリアデザインで描く道筋

2月22日に開幕した2019シーズンの明治安田生命J1リーグ。3連覇がかかる川崎フロンターレを筆頭に、攻守での補強に成功した浦和レッズ、イニエスタ、ビジャ、ポドルスキら“W杯優勝トリオ”が揃うヴィッセル神戸など注目すべきチームは多い。その中で、今季で長谷川監督体制2年目となるFC東京も、虎視眈々と念願のタイトル獲得を狙っている。今回は、同クラブの攻撃陣を引っ張る“スピードスター”、元日本代表FW永井謙佑選手を直撃。自身が愛用するスパイクに対するこだわりや、今季への意気込みを語ってもらった。それに加え、同選手も参加した総合人材サービスを行う「株式会社パソナ」が開催したセミナー『第3回 アスリートキャリアデザイン』の模様もお伝えする。

Icon 1482131451808 佐藤 主祥 | 2019/04/26
ー永井選手はどのスパイクを履かれているのですか?
 
永井:ミズノの『MORELIA NEO(モレリア・ネオ)』シリーズを履いています。2011年に名古屋グランパスに入団した頃からずっと使わせていただいてますね。
 
ーそうなんですね。そのスパイクに対して何かこだわりはあるのですか?
 
永井:やはり軽さと抜群のフィット感、そして大きく伸びない革にこだわりを持っています。『MORELIA NEO』を履いてからは大きな怪我をしたことがありませんし、足のマメすらできたことがないんですよ。合わないスパイクを履いて怪我をするのはもったいないと思うので、履き慣れた『MORELIA NEO』ずっと使い続けていますね。
 
ー永井選手といえばスピードですが、足の速い選手だからこそ、何かスパイクに求めるものはあるのでしょうか?

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永井:ありますね。しっかり地面を噛めるかどうかだったり、鋭い踏み込みやターンがしやすいかどうかは重要なポイントです。そのために自分でスパイクを削ってカスタムすることもあります。
 
それに天然皮革だと、人工より柔らかくてフィット感が良い分どうしても革が伸びてしまうので、ミズノさんにはできるだけ伸びないスパイクを作ってもらっているんです。
 
ー2013年にはベルギー1部リーグのスタンダール・リエージュに移籍されましたが、海外ではミックスソールを使用されていたのですか?
 
永井:いえ、僕は基本的にどこに行っても固定式スタッドしか使いません。というのも、DFといった後ろのポジションだと滑ったら失点に直結してしまうので、ベルギーの柔らかいピッチに対応するためにミックスソールを使用した方がいいと思います。ですが、僕はFWで前のポジションなので、滑ってもそこまで失点のリスクはありません。それに僕自身、プレーでめちゃくちゃ滑るタイプでもないので。だったら、重量が増してしまうミックスよりも軽い固定式のスパイクを履きたいんです。
 
ーゴールを狙うストライカーならではのこだわりですね。では、サッカー少年・少女たちに向けて、スパイクを選ぶ際のポイントを教えてください。

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永井:やはり自分の足にフィットするスパイクが一番だと思いますね。子供の頃だと、これからどんどん体が大きくなりますので、足のサイズも変わっていきます。足に合わないスパイクを履き続けてしまうと、ストレスをかけてしまい、怪我を誘発する可能性を高めてしまう。
 
大人はもちろんですが、特に成長する過程ではストレスのかからない、自分の足にフィットするスパイクを選んで履いてほしいと思います。
 
ーちなみに、永井選手と同じようなプレースタイルの選手の場合はどういったスパイクがいいですか?
 
永井:個人的には丸型のスタッドがいいと思います。『MORELIA NEO』がまさにそうなのですが、丸型だとグリップ力が安定し、どの方向からの圧力でもバランスよく対応できます。加えて足への衝撃や負担を減らすことができるので、ジュニア世代にもおすすめです。
 
ただ、選手によってスタイルはそれぞれ異なるので、絶対に丸型が良いとは一概には言えません。最後はスパイクを実際に履いて、プレーして感じた感覚をもとに、自分の相棒を選んでほしいですね。
 
ー最後に、開幕した2019シーズンへの意気込みをお願いします。

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永井:昨季は、前半戦はすごく良い流れだったにも関わらず、僕が怪我をしてしまい、後半戦でチームを勝たせることができなかった。ですが、「良い前半戦」と「悪い後半戦」という両極端の成績を出した2018シーズンは、自分にとってとてもいい経験になったので、今季はその反省をしっかり生かし、さらに成長した自分をピッチ上で表現できるようにしていきたいと思います。
 
それによって東京をもっと盛り上げられるように、チームとしても、そして個人としても頑張っていきたいですね。


川崎フロンターレとの“多摩川クラシコ”となった2月23日の開幕戦では、スタメン出場を果たした永井選手。ゴールを決めることはできなかったが、昨季の悔しさを晴らすべく、確かな一歩を踏み出した。

永井選手は今季、30歳のシーズン。まだまだ彼のレベルアップは続いていくだろうが、この年齢あたりから引退後のキャリアへ視野を広げる選手は多いのではないだろうか。

そのため、現役の頃からセカンドキャリアの選択肢を増やしておくに越したことはない。そこで永井選手は、総合人材サービスを行う「株式会社パソナ」が開催する、スポーツ選手が引退後の人生を考えるセミナー『アスリートキャリアデザイン』に参加。
 
永井選手をはじめ、同じJリーガーの武藤雄樹選手(浦和レッズ)、岩沼俊介選手(長野パルセイロ)、三上陽輔選手(長野パルセイロ)、野崎雅也選手(当時、ラインメール青森)、昨季限りで引退した元サガン鳥栖の赤星拓氏、ビーチバレーの草野歩選手、陸上の寺田明日香選手ら計8名のアスリートが集まった。

同セミナーの前には、東京・大手町に位置するパソナ本部のJOB HUB SQUARE 13Fにある「パソナ大手町牧場」を見学した選手たち。
 
ここは地域産業の担い手となる酪農分野での人材育成を目的に開設された施設となっており、さまざまな動物を身近に感じることで「酪農」と「食育」を学ぶことができる。
 
主に牛、ヤギ、アルパカ、烏骨鶏、フラミンゴなどを飼育しているという。
 
選手たちも実際に動物たちと触れ合い、酪農や食育について関心を抱いている様子だった。

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そしてセミナーが始まり、会場に集まった選手たち。今回で第3回を迎えたアスリートキャリアデザインでは、元アスリートやさまざまなキャリアを積んできた講師が登壇した。

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はじめに登壇したのは、エイベックス・エンタテインメント株式会社で20年務めた経歴を持つ、高田裕充氏。エンタメ業界でのプロモーションや、アーティストの“ファン創り”をメインに活動してきており、現在はフリーランスで同業界のコンサルティング会社を運営しながら、e-Sports事業も展開している。
 
講演では、現役時に自らの価値を高め、発信する上で必要な「セルフブランディングについて」をテーマに掲げ、自身も経験した「ファン創りの重要性」を選手たちに説いた。
 
ファンを創っていくうえで「当たり前のことを徹底的にやること」が大事だと話す高田氏。名刺交換をした人へのお礼メールや、LINE返信の速度アップなど、ちょっとしたことでも必ず実施し、「サプライズを提供していく気持ち」を持つことがファン創りにつながるという。
 
これはビジネスマンに限った話ではない。個人として多くのファンを持つアスリートだからこそ実践すべきことでもある。
 
前述したように、“当たり前”をやり続けることで「こうやったら相手が喜ぶんじゃないか」「これをすれば相手は驚くんじゃないか」とファンを増やすための引き出しが蓄積するため、セカンドキャリアにおいても大きな“武器”となるはずだ。
 
当講演ではSNSの活用法なども紹介しており、アスリートたちはすぐに活用しようと熱心にメモを取っていった。

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続いて登壇したのは、アビスパ福岡や名古屋グランパスなどでJリーグ通算約350試合に出場し、現在はアサヒビール株式会社の営業マンとして活躍している千代反田充氏。
 
講演で掲げたテーマは「~現役中にやっとおけば良かったこと、工夫していたこと~」。
 
自身の経験をもとに、現役中からセカンドキャリアに向けて準備すべきことを語った。
 
千代反田氏は現役時代、つねに競技だけに集中できるような環境を追求していたため、その妨げになるような予定や行動、人との接触はなるべく控えてきたという。
 
要するに、チームメイトや監督・コーチを含めた現場の人としかコミュニケーションは取らなかったのだ。
 
だが、社会に出てから「一般企業では多くのお客さまとコミュニケーションを取らないと成果は上げられない」ことを学んだ千代反田氏。それに気づくのが引退後だったため、仕事に慣れるまでには相当な苦労をしたという。
 
それを経験したからこそ、現役時代から「空き時間を有効活用」することの大切さを伝えたかったのだ。

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Jリーガーならサッカー関係者だけでなく、他の仕事をしている友人・知人に話を聞いたり、競技以外で興味があることがあれば、その業界に特化した専門家に会いにいくなど、さまざま世界の人と触れ合うことを勧めた千代反田氏。
 
「現役の今から様々なことにアンテナを立てより豊かに生きていく」ために。
 
その想いは、こうして実際に話を聞きにきた選手たちならば、きっと伝わっているはずだ。

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そして最後に登壇したのは、以前は川崎フロンターレのプロモーション部部長で、現在は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会イノベーション推進室エンゲージメント企画部長を務めている天野春果氏。
 
川崎時代には数々のユニークな企画を実現しており、同クラブの“名物プロモーション部長”だったことでも知られている。
 
今回、天野氏がアスリートに伝えたいことをことは「選手は引退後に一流の事業スタッフになれる」ということ。
 
何故ならば、アスリートは結果が全てである厳しい世界の中で、多くのライバルと切磋琢磨しながらも、その競技で突き抜けている存在だからだ。
 
だったら「他の世界でも頑張れる」と天野氏は明言する。
 
今まではセカンドキャリアについて考えたことはないかもしれない。だが、この日をきっかけに「アスリートの経験・マインドは、どんな仕事にも必ず活きる」ということを意識するだけでいい。そうすれば、引退後の人生は大きく変わっていくはずだ。
 
もうすでに、どんな世界でも輝ける力を備えているのだから。

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永井選手は当セミナーについて「すごく楽しかった。僕はこれまでサッカー選手としか食事をしたり、会話をすることがなかった。でもこうして他競技の選手だったり、違う世界の人の話を聞くことでいろんな発見があったので、本当に良い機会でした」と感想を述べ、「引退後のことは具体的に考えたことはありませんでしたが、今回たくさんのアイデアをいただけたので、チームの価値、そして個人の価値を高めるためにしっかり考えて行動していきたいと思います」と、これからのキャリアについて自分の価値を高めることを意識していくことも明かした。
 
第3回目も選手たちにとって有意義なセミナーとなったアスリートキャリアデザイン。有識者やOBの方々から直接、話を聞くことで現役中の刺激やエネルギーとなり様々なことを考え最善の準備していくために、こうした取り組みの重要性はさらに増していくだろう。
 
「キャリアチェンジに向けて最善の準備をする」。
 
このことを学んだ選手たちには、自身のSNS等を通して積極的に発信し、多くのアスリートに“気づき”を与えてほしい。より豊かな人生を送るために。


文・写真/佐藤主祥


<取材協力>

◆株式会社パソナ